高血圧の食事療法はどうやって進めればいい?食事の基準や目安を解説

高血圧の食事療法はどうやって進めればいい?食事の基準や目安を解説生活習慣病のひとつである高血圧に悩む方は非常に多く、日本人の1/3が高血圧と言われています。
そんな高血圧ですが、放置していれば次第に脳卒中や心疾患のリスクが上がっていきます。
 
そのため、高血圧の症状があらわれていたり、高血圧気味という場合には治療を行うことが重要です。
こちらのページではそんな高血圧の治療の中でも、もっとも基本となる食事療法について詳しく紹介していきます。

 

血圧が高い場合はまず食生活を見直す!

不健康な食事
血圧が高いという場合、生活習慣の見直しが治療の基本となります。
栄養バランスのとれた食事や適度な運動、ストレスの解消や十分な睡眠など改善すべき生活習慣は多いですが、その中でも高血圧の改善において優先されるのが食生活です。
 
食生活の見直しが優先される理由は色々とありますが、誰もが絶対毎日行う行為であるため、そこを見直すことは万人に効果が期待できます。
食生活を見直すことで、高血圧の要因である塩分の摂取過多と肥満、一度に複数の要因を改善へと導ける点も優先度が高い理由といえます。

 

血圧を上げてしまう食生活の要因

高血圧の要因となる食生活の乱れですが、具体的に食事の何が高血圧に対して悪影響を及ぼすのでしょうか?
ここからは、血圧を上げることに繋がる食生活の要因について紹介していきます。

 

塩分の過剰摂取

血圧を上げてしまう大きな要因となるのが塩分のとりすぎです。
1回の食事で摂取する塩分量は食事内容によりますが、ラーメンを例に挙げると1杯当たりの塩分含有量はお店にもよりますが6~8gとなっています。
 
厚生労働省が出している「日本人の食事摂取基準」の2020年版では、食塩の目標摂取量は男性が7.5g以内、女性は6.5g以内となっています。
みなさんは塩分と聞くと、食品にかけたりつけたりする醤油や塩を思い浮かべる方も多いかと思いますが、ラーメン・うどんなどの汁物には、1杯だけで1日の塩分摂取目標量になってしまうほどの塩分が含まれていますし、和食の定番の煮込みなどにもかなりの塩分が含まれています。
このことから、知らず知らずのうちに塩分を過剰に摂取しているという方は多いのです。
食事ごとの塩分摂含有量の目安はこちら
 

料理名ラーメンうどん牛丼寿司漬物梅干し塩鮭
イメージ醤油ラーメンきつねうどん牛丼寿司たくあん梅干し塩鮭
食塩量6g5.6g3g2.6g1.4g1g2.2g

参考元:日本人の食事摂取基準(2020年版)

 

過食による肥満

高血圧は食塩の過剰摂取だけでなく、肥満が原因でなる場合もあります。
肥満になってしまうことで、血液中の脂質が高くなってしまうことでドロドロと流れにくい血液になるだけでなく、脂肪が圧迫され狭くなった状態の血管を通ることになるため、心臓にも負担がかかって高血圧となってしまいます。
 
そのため、塩分の摂取量が少ないものや身体に良いとされるものでも、食べ過ぎで肥満になってしまうと高血圧の原因となってしまうので注意が必要です。
ちなみに、肥満かどうかの基準は身長と体重から算出できるBMI(Body Mass Index)が指標となります。
BMIが25から肥満という判定になります(日本肥満学会提唱)。
BMIごとの判定基準はこちら
 

 
このBMIは「体重kg ÷ (身長m)²」という公式で求めることができます。
例えば、身長170cm、体重65kgの場合だと
65÷1.7²=22.49
となり、BMI22.49なので、判定は「普通体重」となります。
 
例2)身長170cm、体重73kgの場合
73÷1.7²=25.26
BMI25.26となり、判定は「肥満(1度)」となります。

参考元:肥満により高血圧が起こるメカニズム

BMI値判定
18.5未満低体重
18.5~25未満普通体重
25~30未満肥満(1度)
30~35未満肥満(2度)
35~40未満肥満(3度)
40以上肥満(4度)

 

過度の飲酒

飲酒も高血圧の原因のひとつとなります。
飲酒でも少量の場合は、血管を広げて血流を促すという作用があります。
しかし、過度な飲酒は血圧を高めてしまうため、お酒を飲むとしても量に気を付ける必要があります。
 
また、お酒のおつまみには塩分量が高いものが多いため、最初に紹介した塩分摂取過多にも繋がってしまいます。
厚生労働省では生活習慣病のリスクを高める飲酒量を男性は純アルコール40g、女性は純アルコール20gとしています。
純アルコール量の算出方法は下記のとおり
 

お酒の量(ml)×(アルコール度数÷100)×0.8(アルコールの比重)=純アルコール量

例1)アルコール度数5%の500ml缶を1本飲んだ場合だと
500×(5÷100)×0.8=20
となり、純アルコール量は20gとなります。
 
例2)アルコール度数14%の赤ワインをグラス1杯(125ml)飲んだ場合だと
125×(14÷100)×0.8=14gとなります。
 
純アルコール40gとなる目安の飲酒量は下記のとおり
 

種別ビール酎ハイ赤ワインハイボールブランデーウイスキー日本酒焼酎
アルコール
度数
5%7%14%7%40%40%15%25%
飲酒量
イメージ
ビール酎ハイ赤ワインハイボールブランデーウイスキー日本酒焼酎
飲酒量1000ml700ml356ml700ml120ml120ml360ml180ml

上記の量を超えての飲酒は過度な飲酒となってしまうため、飲酒の頻度などに注意する必要があります。

 

高血圧の方の食事療法の基準

健康的な食材
高血圧を改善するためにはまずは食事療法が基本となります。
ここからは、実際に高血圧を治療するために行う食事療法におけるさまざまな基準について紹介していきます。
基準を守り適切な食生活を送ることだけでも、高血圧の改善につながるため覚えておくようにしましょう!

 

塩分を控える

高血圧の食事療法において、最も基本となるのがこの塩分の摂取量の制限です。
過剰な塩分は体内に水分が蓄積してしまうので、心臓に送られる血液量、つまり循環血漿量が増えるため血圧が高くなります。
そのため、摂取する塩分量を制限することで、血圧が上がらないようにします。
食事療法における1日の塩分摂取量の基準となるのが6gです。
 
前述したようにラーメン1杯あたりの塩分量が6gであるため、ラーメンを食べてしまえばその後は塩気の味気ない食事をしなければならないといったようなことになります。
そのため、塩分量の少ない食事や出汁などを活用した塩分を抑えながらも美味しく食べられるメニューを中心に食生活を組み立てていく必要があります。

 

コレステロール・飽和脂肪酸の摂取を控える

高血圧の食事療法ではコレステロールや飽和脂肪酸の量を控えることも大切です。
コレステロールは血管を狭めて血圧を上昇させたりしますし、飽和脂肪酸はそのコレステロールを増やしてしまいます。
 
そのため高血圧の食事療法においては、コレステロールの多い食材(動物の内臓や肉、魚卵、卵を使用した菓子類など)を避けたり、飽和脂肪酸の摂取量を摂取エネルギーの7%以下にしたりすることが提唱されています。
飽和脂肪酸は悪玉といわれるコレステロールを増加させてしまいますが、青魚などに豊富に含まれる不飽和脂肪酸はその悪玉コレステロールを減少させる働きがあるため、積極的な摂取が推奨されています。

参考元:食事摂取基準の位置づけ・ 策定の理論

 

野菜や果物を積極的にとる

血圧を下げるための食事に欠かせないものとなっているのが野菜や果物です。
ほうれん草などの野菜やバナナなどの果物はカリウムを豊富に含みます。
カリウムは体内のナトリウムを排出する作用があるため、体内の余計なナトリウムと水分を外に出し、血圧上昇の抑制につながるため、積極的に摂取すると良いでしょう。
 
ただし、腎臓病を患っている方の場合はカリウム摂取量が制限されている場合もあるため、かかりつけ医にご相談ください。
果物は糖質が高いものも多いため、過剰な摂取には気を付ける必要があります。
また、昆布やわかめといった海藻類に豊富に含まれる水溶性食物繊維も体内のナトリウムを吸着して体外へと排出する作用があるため役立ちます。

 

お酒を控える

高血圧では飲酒量を控えることも大切です。
アルコールは少量であれば、体内で代謝されたアセトアルデヒドが血管を広げることで血圧は下がります。
しかし、過度に飲酒した場合はアルコールに血管を狭くする作用や、心臓の拍動を速める神経を活発にさせる作用があるため、血圧が上昇します。
そのため、飲酒はできる限り控えるか、飲酒をする場合は少量で抑えることが重要です。
 
高血圧の方の場合、1日のアルコール摂取量の目安は、男性だと純アルコール量で20g、女性だと純アルコール量で10gとなっています。
純アルコール量20gの目安としては、アルコール度数5%のビールだと500ml缶が1缶、アルコール度数7%の酎ハイだと350ml缶が1缶というのが目安になります。

 

減量する

高血圧の食事療法では、これまでに紹介したような塩分やコレステロールの摂取を控え、食物繊維やカリウムを積極的に摂取しながら、体重を落として肥満体型から脱することが目標となります。
減量を行いながら、高血圧の食事療法は中長期でじっくりと進めていくという認識を持って、改善していくようにしましょう。

 

高血圧の食事療法の進め方

中長期の治療が必要になる高血圧の食事療法。
頭ではわかっていても、継続するのはなかなか難しい事ですよね。
そこで、ここからは高血圧の食事療法を上手に進めるポイントを紹介していきますので、是非お役立てください。

 

最終的な減量目標を調べる

高血圧をはじめとする、減量の食事療法を行う上で、最初にするべきことが「減量目標を立てる」ということ。
どのぐらいまで減量するのかといった目標については、基本的に病気が最も少ないとされているBMI22を基準として算出するようにしましょう。
 
BMI22を基準として目標体重を算出する計算式はこちら
 

(身長(m))²×22(BMI)=目標体重

身長170cmの方を例にして目標体重を算出してみると
(1.7m)²×22=63.58
となるので、目標とすべき体重は63.58kgとなります。
 
身長が160cmの方の場合だと
(1.6m)²×22=56.32
となり、目標体重は56.32kgとなります。
 
また、より健康的な状態を目指す場合は、適切な体脂肪率も併せて目標にすると良いでしょう。
目標となる体重を把握した後は、食事療法で無理のない形で着実に体重を落としていくことが大切です。
適正な体脂肪率は男性の場合だと20~24.9%、女性の場合だと15~19.9%となります。

 

減塩の工夫をする

つづいて減塩についてです。
高血圧治療において、減塩はかなり大切なことですが、特に和食文化の日本では、難しいと思われる方も多いと思いますので、減塩の工夫をいくつか紹介します。

 

加工品より生食品を使う

食事療法で減塩を行っていく上で、大きなポイントとなるのがこちらです。
塩鮭を生鮭にする、ハンバーグをひき肉にするといった形で調理前のものを購入する方法です。
加工品は既に味付けがされているので想像以上に塩分が含まれていたりしますし、そこから塩分を減らすといったこともできません。
 
ですが、生食品を購入することによって自身で塩分量を調整することが可能となります。
ただし、生食品を買ったからといって、味付けを濃くしすぎると加工品よりも塩分摂取が多くなってしまうこともある点には注意が必要です。

 

塩分を減らして別の工夫をする

食事療法に必須となる減塩ですが、塩分を減らすとどうしても食事は味気の無いものになってしまいがちです。
そうした時には、別の方法を用いるという工夫が役立ってくれます。
例えば、胡椒や唐辛子などのスパイスを用いることで塩気とは違った味付けで美味しく食べることができたりします。
 
またスパイス以外にショウガやワサビといった薬味を添えることで味を変えたり、塩分量がそもそも少ない酢の物にしたりすることでも減塩が可能です。
こうした工夫を食事の中に取り入れることで、無理のない減塩が可能です。

 

汁物は天然ものの出汁を使う

食事に汁物は欠かせないという方は多いかと思います。
ただ、こうした汁物を作る場合でも、塩分量の制限がネックとなってしまうことは珍しくありません。
こうした時に役立つのが、天然の出汁を使うという方法です。
 
パックの出汁の素にはうまみ成分の他に、塩分などが添加されていたりします。
ですが、干しシイタケや昆布、かつおなどさまざまな出汁を駆使することによって、塩分を減らしながら美味しい汁物を作ることが可能です。

 

栄養バランスを考えた食事を心がける

高血圧の食事療法とはいえ、ただただ塩分だけを減らせばよいというものでもありません。
主食・主菜・副菜で栄養バランスのとれた食事を朝・昼・晩の3食をきちんと食べるようにしていくことも大切です。
 
また、塩分が多い汁物については、汁の量を減らして具を増やすといったような工夫を行うようにして塩分摂取量を減らすようにしましょう。
いきなりすべてを完璧にこなすというのは難しい場合もありますが、少しずつでも意識していくだけでも違いは生まれてくるので、上手に考えて減塩を進めましょう。

 

まとめ

こちらのページでは高血圧を改善するための食事療法について詳しく紹介してきました。
こちらの記事のポイントは下記の3点!

  • 高血圧の要因は塩分・肥満・アルコール
  • 高血圧の食事療法の基本は、減塩と減量!
  • 難しい減塩も、いろいろな工夫で快適になる

ただただ、目標となる塩分量に塩分を減らすというのは容易です。
ただし、そうした場合には食事は味気の無いものになってしまうため、いろいろな工夫を取り入れながら栄養バランスのとれた食事を心がけるようにしましょう。
 
高血圧の食事療法は短期間で終わるというものではなく、中長期の期間でじっくりと腰を据えて進めていく必要があります。
そのため、中長期に渡って無理のない目標を立てて、無理な減塩などを避けてじっくりと着実に高血圧を改善へと導けるようにしましょう。

 

女医

 

監修者情報

井上禎子先生

  • 医師

    井上 禎子

  • 所属・資格等

    まごめ内科・腎クリニック 院長

  • 経歴

    平成8年東京女子医科大学卒業、同大学腎センター内科に入局。
    高血圧、糖尿尿、腎炎、腎不全、透析患者の合併症、などを中心に臨床を行いつつ、東京医科歯科大学腎臓内科教室へ国内留学、ポドサイトの分子生物学的考察で医学博士を取得。
    平成26年3月にまごめ内科・腎クリニックを開業、高血圧、腎疾患、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群を中心とした専門性を兼ね備えた診療を行っている。特に、管理栄養士・看護師とともに、患者さん一人一人の生活習慣に寄り添った医療を目指している。
    専門医:内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医、指導医
    井上先生のクリニックはこちら→まごめ内科・腎クリニック